唐突ですが、皆さんにとっての心に響く1曲はお持ちですか?
実は5年程前に遡るのですけれど、九州で懇意にしている先生がいまして、ちょうど大阪にお越しになる時でした。直前に、先生が「自分の兄が今ちょっと弱っていて、よければ一緒に連れて行ってもよいですか?」と尋ねられるのです。それで、ご一緒することになり、先生とお兄さんと食事を共にしました。
そのお兄さんが、つい最近奥様を亡くされて意気消沈していたので、私たちに会わせて元気をもらいたいということだったのです。当時、お兄さんは50歳くらいで、優しい雰囲気の方です。
たまたま食事の後に訪れたお店にはピアノがあり、奥様との思い出の曲だと言われ、私がその曲を弾くことになりました。
パッヘルベルという人が作曲した「カノン」で、皆さんもたぶん聴かれたことがある名曲です。
私たちはその日、お酒をそこそこ飲んでいたのですが、お兄さんはカノンを聴きながらピアノの側で涙を流されたのです。
私としては、衝撃でした。なぜって、お兄さんとは初対面でしたし、男性が泣いている姿をあまり目の当たりにしたことがなく、なんというかビックリしたのです。
でもその反面、音楽は「喜怒哀楽」に直結して、思い出の曲は感情を揺さぶる力があるのだと改めて思いました。
それが5年前のお話しで、そのご兄弟とつい最近再会し、ご一緒したお話しです。
お兄さんの思い出の曲「カノン」をピアノで弾いて差上げました。
お兄さんは喜んで聴いてくださり、スマホで動画を撮っていました(撮ってよいかとは聞かれませんでしたけど笑)。
そして、「今日も泣きかけました」と言いながらも、にっこり笑っておられたのです。
「時が解決する」っていうのは本当だなぁとつくづく思いました。
哀しみがなくなった訳ではないけれど、時間が経過するとその哀しみの濃度が薄らぐのだと。
この素敵なご兄弟とは「一生の友」としてお付合いしたいと思います。